仮想通貨の「清算額○億ドル」は実額ではない|建玉(OI)・資金調達率とあわせて誤解を整理【2026年7月】

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「清算額○億ドル」は、取引所が公開している数字の一部でしかない

相場が急落するたびに「○億ドルが清算された」という数字がSNSやニュースを駆け巡ります。ところが、この数字の元になっている公開データには、2021年から続く構造的な制約があることはあまり知られていません。以下は2026年7月25日時点で確認できる情報です。

デリバティブデータ集計サービスのCoinalyzeは、自社のビットコイン清算ページに注記として、2021年4月27日以降、Binanceは完全な清算データを提供しておらず、1秒あたり1件の清算注文しか配信していないと明記しています。Bybitについても、2021年11月以降は同様に完全データの提供をやめたものの、2025年2月から完全な清算データの提供を再開したと記載されています。

Binanceの開発者コミュニティフォーラムにも、2021年4月27日のスナップショット方式への変更以降、USD-M先物のforceOrder(強制決済注文)ストリームで大量のデータが欠落しているという利用者からの報告が残っています。つまり、集計サイトが表示している清算額は「起きた清算のすべて」ではなく、取引所ごとに間引かれ方の違うデータを足し合わせた合計だということになります。

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実際にどれくらいズレるのか:当事者が明かした数字

このズレの大きさを、取引所の当事者自身が具体的な数字で示した例があります。2025年2月4日、BybitのCEOであるBen Zhou氏は自身のX(旧Twitter)への投稿で、同日のBybit単体の24時間清算額は21億ドルだったが、CoinGlass上に記録されていたBybitの24時間清算額は約3億3,300万ドルにとどまっていたと述べています。単純計算で、実額の8割以上が公開データから抜け落ちていたことになります。同氏は同じ投稿で、市場全体の実際の清算額は報じられていた20億ドルではなく、少なくとも80億〜100億ドル規模だったのではないかとの見方を示しました。

より大規模な事例が、2025年10月10日のいわゆる「10/10」の暴落です。集計サイトのデータでは、190億ドル超のレバレッジポジションが強制決済され、清算されたアカウント数は約160万に達したとされ、記録上最大の清算日となったと報じられています。ただしこの局面でも、CoinGlass側はBinanceの報告値が実態の10分の1から20分の1程度にとどまっていると指摘したと伝えられており、記録的とされた190億ドルという数字ですら下限に近い可能性がある、という構図になっています。

なお、これらの推定値はあくまで各当事者の主張であり、取引所の内部データによる第三者検証が公開されているわけではありません。金額の正確さを前提にした議論には慎重であるべきです。

清算額は「消えたお金」ではない — 何を測った数字なのか

データの欠落とは別に、もう一つ根本的な誤解があります。清算額は、投資家が失った金額ではありません

清算額として集計されているのは、強制決済されたポジションの想定元本(ノーショナル)です。レバレッジをかけた取引では、想定元本と実際に預けた証拠金はまったく別の数字になります。たとえば20倍のレバレッジであれば、想定元本100万円のポジションを持つのに必要な証拠金は概ね5万円程度です。このポジションが清算された場合、清算額としてカウントされるのは100万円のほうであり、失われた資金は証拠金側の金額に近くなります。

したがって「190億ドルが市場から消えた」という表現は正確ではありません。デリバティブ取引は買い手と売り手が必ずペアで存在するため、清算で損失を出した側の反対側には、その値動きで利益を得た主体がいます。清算額が示しているのは強制的に解消されたポジションの規模であって、市場から蒸発した現金の総額ではない、という点を押さえておく必要があります。

未決済建玉(OI)の増加は「資金流入」を意味しない

清算と並んでよく参照されるのが未決済建玉(Open Interest、OI)です。これは、まだ決済されていないデリバティブ契約の総量を示す指標で、「OIが増えた=新規資金が入ってきた」と解説されることが少なくありません。しかしこれも、そのまま受け取ると誤読につながります。

OIが1増えるには、新規ロングと新規ショートの両方が必要

OIは契約のペアを数える指標です。未決済契約が1つ増えるためには、新しく買い建てる人と新しく売り建てる人が同時に必要になります。つまりOIの増加が示すのは「その市場で反対売買を組んでいる参加者が増えた」ということであって、市場に資金が一方向へ流れ込んだことの証明にはなりません。実際に取引所へ入金されているのは、契約の想定元本ではなく証拠金の部分だけです。

単位が取引所ごとに違うという落とし穴

さらに厄介なのが表示単位です。TradingViewのヘルプセンターは、暗号資産の未決済建玉について、非集計データは取引所や暗号資産デリバティブによって、基軸通貨、決済通貨建、または契約数で表示される場合があると注記しています。統一された単位が存在しないということです。

ここが実務上の罠になります。コイン建て(たとえばBTC建て)で見たOIがまったく変化していなくても、ビットコイン価格が上がればUSD換算のOIは自動的に増えます。ドル建てのチャートだけを見て「建玉が急増している、資金が流入している」と判断すると、単に価格が上がっただけの現象を資金フローと取り違えることになります。OIを見るときは、その数字がコイン建てなのかドル建てなのか契約数なのかを先に確認するのが基本です。

資金調達率(Funding Rate)は「手数料」でも「年率」でもない

無期限先物(パーペチュアル)特有の指標である資金調達率も、誤解の多い数字です。Binance Academyの解説によれば、Binance Futuresの標準的な資金調達の間隔は8時間ごとで、1日3回の支払いが発生します。また、多くのUSD-M契約で標準金利は1日あたり0.03%とされ、これを3回に分けると8時間あたり約0.01%になります。なお2025年以降、レートが継続的に低い状態が続く場合などに間隔を4時間へ動的に切り替える仕組みも導入されているとされているため、具体的な適用条件は各取引所の公式発表を確認してください。

誤解しやすい点は主に二つあります。

  • 取引所に払う手数料ではない。資金調達率がプラスのときはロングポジション保有者がショートポジション保有者へ、マイナスのときはその逆方向へ支払います。取引所がこの資金を徴収するわけではなく、トレーダー間の直接的な資金移動です。
  • 表示されている数字は年率ではない。0.01%という表示は8時間あたりの率であり、感覚的に「ほぼゼロ」と読んでしまいがちです。しかし1日3回、365日続くと仮定して単純計算すれば0.01%×3×365で年率約10.95%相当になります。実際には資金調達率は市場環境で刻々と変動するため、この数字がそのまま年間コストになるわけではありませんが、桁感を年率に直して把握する習慣があるかどうかで、ポジションの持ち越しコストに対する認識はかなり変わります。

資金調達率の主な変動要因は、無期限契約のマーク価格と原資産のインデックス価格の差を測るプレミアムインデックスだとされています。資金調達率が高止まりしている状態は、ロング側に偏った建玉が積み上がっていることのシグナルとして読まれることが多い指標です。

中央集権取引所とDEXでは「見えている範囲」が根本的に違う

ここまでの話は、突き詰めると「誰がデータを持っていて、どこまで公開されているか」という問題に行き着きます。

BinanceやBybit、OKXのような中央集権型取引所(CEX)では、個々のポジションは取引所の内部データであり非公開です。外部から見えるのは、集計された未決済建玉やロング・ショート比率、そして間引かれた公開清算フィードだけになります。一方、Hyperliquidに代表される無期限先物のDEXでは、ポジションも清算処理もオンチェーンに記録されるため、原理的には誰でもすべての清算を照会・検証できます。2025年10月10日の暴落では、Hyperliquidが単一会場として最大級の強制清算を処理し、その全件をオンチェーンで公開したと報じられています。

問題は、集計サイトが表示する「市場全体」の数字が、全件を公開している会場と、1秒1件に間引いている会場のデータを、そのまま足し合わせたものだという点です。取引所別の清算額ランキングを見て「この取引所は清算が少ない」と判断するのは、多くの場合データの粒度の違いを見ているにすぎません。

指標を読むときに最低限そろえておきたい確認事項

個人投資家がこれらの指標に振り回されないために、実務的には次の3点を確認するだけでも誤読はかなり減ります。

  • 数字の出所と粒度。清算額はどの集計サイトの値か、対象取引所は完全データを公開しているのか。同じ日の清算額でも、サイトによって数字が違うのは珍しくありません。
  • 単位。未決済建玉がコイン建てかドル建てか、資金調達率が8時間あたりか年率か。単位を取り違えると結論が反対になります。
  • その数字が何を測っているのか。清算額は想定元本であって損失額ではなく、OIは契約の総量であって資金流入額ではありません。

これらの指標は、市場のレバレッジの積み上がり具合を把握する材料としては有用です。ただし、いずれも売買判断の根拠として単独で使えるほど精度の高いデータではないというのが、2021年以降の公開データの実情です。制度や仕様は変更される可能性があるため、具体的な資金調達の間隔や清算データの提供方針については、各取引所の公式ドキュメントや発表を必ずご確認ください。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。

参考にした情報源

※ 本記事は 2026年7月25日 時点で公開されている情報を元に作成しています。制度や仕様は変更されることがあるため、判断の前に公式の発表をご確認ください。

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